Photographer : Yusuke Iida
Editor : Takeshi Koh
特別対談
#01
ホテルで未来の暮らしを
提案する若き経営者たち
各務太郎 × 龍崎翔子
物質的な贅沢よりも、体験的な贅沢を。
そんな時代の中で、「ホテル」も変革のときを迎えている。
単なる宿泊機能だけでない“付加価値”をどう提供するか。
そんな課題に挑戦し独自の答えを出した2名の若きホテル創業者。
“ソーシャルホテル”「HOTEL SHE,」
代表・龍崎翔子と、
“泊まれる茶室”「hotel zen tokyo」代表・各務太郎。
「現役東大生」と「ハーバード大学院修了生」という華麗なる経歴の持ち主であることも共通点である
が、2人はホテルが持つ可能性、社会・カルチャーに対する影響力をどのように捉えているのだろうか。
新時代のホテル経営者が、ホテルを通して生み出せるカルチャーについて語り合った。
各務太郎Taro Kagami
Hotel zen tokyo 代表 / 建築家 / コピーライター。早稲田大学建築学科卒業後、株式会社電通入社。コピーライター/CMプランナーとして数々のCM企画を担当。2014年電通を退職後、2017年ハーバード大学デザイン大学院にて都市デザイン学修士課程修了。2018年株式会社SEN創業。第30回読売広告大賞最優秀賞。著書「デザイン思考の先を行くもの」。
龍崎翔子Shoko Ryuzaki
ホテルプロデューサー。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS Inc.を立ち上げ、「ソーシャルホテル」をコンセプトに掲げ北海道・富良野の「petit-hotel #MELON 富良野」や京都・東九条「HOTEL SHE, KYOTO」をプロデュースする。2017年9月には大阪・弁天町でアナログカルチャーをモチーフにした「HOTEL SHE, OSAKA」を、2017年12月には北海道・層雲峡でCHILLな温泉旅館「ホテルクモイ」をオープン
初めまして。「hotel zen tokyo」はSNSで拝見し、気になっていました。各務さんの前職は大手広告代理店のコピーライターでしたが、なぜホテルを創ることに?
僕は大学も建築学科で、もともと建築家志望だったんです。でも、建築家の仕事って建てたら終わりじゃなくて、実は建てた後の「場所や人との関わり方」がとても大事なんですね。それって広告が得意とするコミュニケーション領域の話なのでは、ということで、まずは広告会社でコピーライターを3年半やりました。
その後、改めてアメリカの大学院に2年間通い、ニューヨークや香港の地価の急激な上昇等の都市問題、またその解決策としてのゴールデン街や漫画喫茶などの極小空間を研究したんです。結果、狭ければ狭いほど自分と向き合う余地が生まれ、豊かな空間とされる禅の空間の必要性に気づき、東京で“泊まれる茶室”をコンセプトにしたカプセルホテルを創りました。
龍崎さんは大学生というか、もっと前の段階から「ホテル」に焦点を当てていて、着目の早さやスケールの大きさが凄いですよね。
私の場合は小学生時代に両親と一緒にアメリカの横断旅行をしたのですが、毎日ホテルに泊まるのに全然代わり映えしないことがとても嫌だったというのが原体験としてあって。だから10歳のときには「ホテルやる」って決めていましたね。
ちょうどいろんな人から「将来の夢は?」とか聞かれる時期でもあったし、その都度「ホテル」と答えていたことで、段々アイデンティティ化したという部分もあったと思います。
あと、経済的合理性のある夢であったことも良かったと思っていて、これがもし「アイドルになる」とかだったら、外部要因が大きくうまく仕事にできていなかったかもしれない(笑)。
「カルチャーの借景」
「ライフスタイルの試着」
ホテルとカルチャーの
新たな関係性
今回は「カルチャー」がテーマということですが、ホテルとカルチャーの繋がりについて、各務さんはどのように考えていますか?
ホテルって昔はあくまでデスティネーション、辿り着く場所でしたよね。でも、僕はいつも「ホテルを出発点にしたい」という風に思っています。
ホテルを訪れるとそこが起点となり、周囲のデスティネーションが見つかる。「機能の借景」と呼んでいるのですが、周囲の街も含めて、ひとつの大きなホテルと考えるイメージでしょうか。
だから「hotel zen tokyo」ではホテル自体は極力ミニマルな方向に持っていってるんですが、同じようにホテルは「カルチャーの借景」も可能だと考えています。そのホテルから地域のカルチャーを眺めることで、真の価値に気付けたり、触れたいと思うようになる。
考え方、そしてワーディングがとても面白いですね。「hotel zen tokyo」さんにおける「カルチャーの借景」とは、たとえば?
インバウンドを意識したホテルなので、地域は少し広くて「日本」ということになるのですが、「禅」というカルチャーを借景していますね。
すべての部屋が、茶聖と称される千利休が16世紀後半に生み出した茶室の傑作「妙喜庵(待庵)」にインスパイアされた二畳の空間になっています。少し前から海外では「コンマリ」や「無印良品」のコンセプトが大きなムーブメントとなっているのですが、それって大きくくくるとジャパニーズミニマリズム。元を辿っていくと千利休に辿り着くんです。
「hotel zen tokyo」で過ごした人がホテルから出掛ける際には、ただ外出するのでなく「禅」の世界に飛び出す感覚を持てるというような存在を目指しています。
私も「HOTEL SHE,」を通して、大阪なら弁天町、京都なら東九条の魅力を知ってもらえたらという想いがあるので、とても共感します。
ホテルって3つのものを媒介する存在だと考えていて、1つ目が「ゲストと街」、2つ目が「ゲストと人」、3つ目が「ゲストと文化」です。
1つ目と2つ目に関しては、ホテルは地域に目を向けてもらうきっかけを作れる場所、そして隣町の人と地球の裏側の人が混ざり合う機会をつくれる場所という点で、大きなポテンシャルを感じています。
そして今回のテーマである「カルチャー」に最も関係が深いのが3つ目。ホテルって衣食住を包括しているので「憧れのライフスタイルを試着できる場所」だとも思っていて。自宅やその生活環境では体験できないライフスタイルを、ホテルで過ごす数日を通して試着する。雑誌の『POPEYE』が特集を組んで誌面で伝えるようなライフスタイルの提案を、ホテルであれば五感で体験させることができるという点で、ホテルはカルチャーに対する大きな影響力を持っていると考えています。
とても分かります。ホテルってただの泊まる場所でなく「1日暮らす場所」なんですよね。ホテルを渡り歩いて暮らす人なんかも増えていますし、「ライフスタイルをインストールする箱」としてホテルを捉えるという考え方、とても時代に合っていると感じます。
「未来の暮らしを変える」
ふたりの展望
各務さんの今後の展望が気になります。
東京で「極小空間に住む」という生活をスタンダードなものにして、未来の暮らし方を変えられたらと思っています。
都心だからって十数万円の部屋に住む必要はなくて、狭いベッドルームに3万円で住んで、キッチンやお風呂は欲しい人だけがトッピング感覚で近所のものをサブスクリプションすればいい。
都市の課題の一番大きいところは結局地価の高騰で、郊外から都心に通わざるを得ないために通勤ストレスが増えたり、過剰な交通渋滞が発生しているのですが、その解決策としての極小空間をホテルというショーケースを通してプレゼンテーションしていければと考えています。
龍崎さんは、次にホテルをつくるとしたら、どんなことを考えますか?
えっと…プールを作れるかっていうのは大事にしたいですね。
プールは意外な回答です(笑)。
私たちって形式美とかコンセプトを追求するがあまりに、それに捉われてしまっているということも多いと思っていて。
ゼロベースで考えたときに最高に居心地がいい空間って何かっていうのも大切にしたいと思うんです。私は今、すごくプールがほしい。「DO」ではなく「BE」でスペシャルになれるプールサイドが好き。そういう感覚も忘れずにいたいなと思います。
なるほど。それは最高ですね。
あと、この5年で素敵なホテルってかなり増えたなと感じていて、今はそれぞれの人にとって魅力的なホテルを的確に選ぶためのプラットフォームをつくることが人々を豊かにすることに繋がるかなと思っているので、その方向にも力を入れていきたいですね。
本当に、若いのに背負っているものが大きく、素晴らしいですね。僕と龍崎さんって、根本の問題意識は一緒で、アプローチや解決策が逆だったりする面白い関係だと感じました。
これからも情報交換しながら、それぞれの方法で人々の暮らしを良くしていけたらと思います。
今日はお話しできて嬉しかったです。これからもよろしくお願いします。
特別対談
#01
ホテルで未来の暮らしを
提案する若き経営者たち
各務太郎 × 龍崎翔子
2019.10.15 WEDThe Time of Talk
Taro Kagami × Shoko Ryuzaki